2017年4月16日

Overwrite

最近、何もかもが美しくて
「今」以外に立つことができない。

音や匂い、光の色はその時々の記憶を運んでくれます。
ある時期に聴いていた音楽や纏っていた香りを
意図的にもう1度選ぶことで、以前の記憶は薄れ、
「新しい今」の音や匂いに上書きされていきます。

以前は、誰かと別れ一緒にいた頃の記憶が
その頃よく聴いていた曲で鮮明に蘇る苦しさを消す為に、
意図的にその音をわざとヘビロテで聴き、
新しいシーズンの音として、上書きすることもありました。

小さい頃大好きで食べ過ぎて、嫌になってしまった味も
大人になって大切に味わうことで、知らなかった美味しさへ。

本は、何度読んでもその時の「今」が拾うエッセンスが違うから
読むたびに、別の本へと生まれ変わります。

それでも、上書きされない記憶があるのです。

子供の頃やっていたクラシックバレエ。
ポワントの先につける松ヤニのクリスタルの匂い。
リハーサルや舞台の前の長時間のレッスン中、
スタジオに差し込むやわらかい西陽と共に
先生の香水の甘さも混ざり合って、姿勢が正されていく。

未知の国で見た、碧いサンセットの光の色。
街や水辺を包む、ブルーの幻想的な光は、
ハワイの強い光にも上書きされることなく
今も心に、黄金の煌めく碧い帯が流れています。

何度も繰り返し見ている夢の中の世界に
こちらからアクセスするたび、記憶は鮮明になっていきます。

あの時、あの人が言った言葉と表情や瞳の奥の色。
何にも触ることのないまま、今も心に温かいものをもたらしてくれる。

上書きされ消えていくことを見送り、
心に残っていくことを大切に味わっていこう。
それだけで、充分のような気がします。

シンプルに誰もが、いつか全てを終えてこの世界を去っていく。
時間も空間も超えて、今ここにあるものが全て。

敵も味方もなく、自分の心をみつめていれば繋がっていける。
そんなところが、人間は素晴らしいなって。

今だから尚更、思うのです。

tsuki